前編では、改正相続税のポイントについて確認してきました。後編では、どのような対策が節税につながるのかについて、引き続き、税理士法人タクトコンサルティングの平松慎矢先生のアドバイスをお伝えしてまいります。
→「前編/相続税改正ポイント」はこちら
1.分割対策
(1) 遺言を活用する
文字通り、相続財産をどのように分けるかという問題に対する対策です。相続を"争族"にしないためには、この分割対策がとても重要になります。すべての相続人が納得する遺産分割をすることが争いを避けるポイントなのです。
そのために、是非活用したいのが遺言です。遺言には自筆証書遺言と公正証書遺言、さらには秘密証書遺言があります。自筆証書遺言は自分で遺言を書いて保管するというものです。これに対して、公正証書遺言は、公証人によって作成してもらう遺言で、原本自体を公証役場が保管します。秘密証書遺言は、遺言の内容を一切秘匿した状態で、公証人に、その存在のみを証明してもらうという遺言です。
このうち、自筆証書遺言と秘密証書遺言については、その執行にあたり、裁判所の検認手続が必要となります。これは、遺言書の偽造や変造を防止するための手続きであり、検認が済まないと相続手続きができません。しかし、公正証書遺言の場合には検認手続が不要で、相続手続きがスムーズに進められるのというメリットがあります。ですから、遺言を用意するのであれば、公正証書遺言を活用するのがよいでしょう。
(2) 遺言には付記事項を記載する
公正証書遺言を作成するだけで争族を解消できるかといえば、それだけでは十分ではありません。
さらなる争族対策として、付記事項を書き加えることをお薦めします。遺言には、どの相続人に何の財産を相続させるかということが記されるわけですが、そのほかに、「何故、そう分けるのか」の理由を付記することがとても重要です。
たとえば、家業を継ぐ長男に手厚い分割になるなど、多少不公平な分割になること自体は致し方のない部分もありますが、その理由や思い等が明らかになっていないことで争いになってしまうことが少なくないようです。
なお、どのように遺産分割するかを考えるに際して注意すべき点として、各相続人の遺留分を侵害しない範囲内で、相続財産の割り振りを決めるということが挙げられます。
遺留分とは、法定相続人が最低限主張できる相続分で、原則として法定相続分の半分と法律で定められています。そのため、遺留分を下回る相続財産しか相続できなかった相続人は、自分の遺留分が侵害されたとして、「遺留分の減殺請求」という申し立てを行い、他の相続人から相続財産を取り戻すことができます。そのため、個々の相続人の遺留分を下回ることのないような分割にすることが肝要です。
2.納税対策
相続税の申告・納税期限は、相続が発生した時点(被相続人が亡くなった日)から10ヵ月以内とされています。
原則として納税は現金によるので、納税対策とは「納めるべき相続税を現金で準備しておく」ことだと言ってもよいでしょう。一般に、お金のない相続は争いになりがちです。例えば、相続財産が自宅をはじめとする土地・家屋のみだとした場合、その評価額を基準にして相続税が算出されるわけですが、不動産資産しかないのであれば、別途現金を手当てするか、相続財産である土地・家屋を売却して納税資金を確保しなければならないことになります。
そのための一つの備えとしては、生命保険の活用という方法があります。たとえば夫が妻を保険金の受取人とした保険に加入した場合、夫が死亡した際の生命保険金は受取人である妻が保険金請求権を取得するので、相続財産とはなりません。よって原則として遺産分割の対象でもないので、納税資金として活用できることになります。ただし相続税の計算上の財産には含まれますのでご注意ください。
3.節税対策
分割対策、納税対策に目処がついたら、最後に節税対策を考えることになります。何故、節税対策を最後に考えるのかといえば、それは税制改正がほぼ毎年のようになされるからです。そのため、昨年有効であった節税対策が今日では無効になるということもあるのです。
さて、相続税の節税としては、大きく2つの方向性があります。ひとつは、「財産をなくす」こと、そしてもうひとつは「財産の評価を下げる」ことです。
以下、それぞれについて見ていきましょう。
(1) 「なくす」節税対策
1億円の相続財産があったとして、これを5000万円に減らすことができれば、当然に納税額も減り、節税になるという単純なハナシです。
しかし、せっかくの財産を無駄遣いして減らしても無意味です。意味のある減らし方をしなければいけません。
①生前贈与の活用
たとえば生前贈与という方法を活用して、被相続人の財産の一部を子や孫などに引き継ぐことで、財産を減らすことができます。
贈与すると贈与税がかかりますが、年間110万円/人までは非課税です。ただし、年間の限度額が110万円/人ですから、あまり大きな金額を動かせません。しかし、年間110万円/人を超えても贈与税をきちんと納める前提で贈与を活用すれば、後々の相続税よりも節税になるケースもあります。
たとえば、1人に対して500万円の贈与を実施したとしても、贈与税額は53万円、実効税率は10%程度にすぎません。
子供や孫を含めて、10人に対して500万円の贈与を実施すると、合計で5000万円の相続財産を"なくす"ことができます。
ただし、生前贈与を実施する際には、注意すべき点もあります。ひとつは、あげる側ともらう側がきちんと合意していること、さらに贈与された財産をもらった側が管理していることです。
お父さんが相続税の節税対策として、子供名義の銀行口座を作り、そこに贈与として預金を移し替えたとしても、それは「名義財産」といって、あくまでもお父さんの財産(=相続財産)だと見なされてしまいます。もし、もらう側と合意していても、預金通帳と印鑑をお父さんが管理していれば、やはり税務署は名義財産と判断するでしょう。こうした点にも注意しながら、節税対策としての生前贈与を検討してみてはいかがでしょうか。
②生前建墓などの活用
祭祀財産(お墓やお仏壇など)は相続財産ではないという話をしました。生前に自身のお墓を購入した場合も、当然にそのお墓は相続財産から外れます。
たとえば、1000万円の現金財産を相続すれば、その1000万円に対して相続税がかかり、その後、相続人が200万円でお墓を用意したとすると、相続した1000万円の現金の中から相続税とお墓購入費200万円を手当てするので、手元に残るお金が減ります。しかし、生前に、本人がお墓を購入しておけば、相続財産そのものが800万円に減るので、それに対する相続税額も減りますし、相続人が、相続した現金の中から200万円を出費することもありません。
ですから、お墓のない方であれば、お墓を購入することで相続財産を"なくす"という方法も検討してみてはいかがでしょうか。
(2)「財産の評価を下げる」節税対策
現金預金として5000万円あったとすると、相続税を計算する際の評価額は5000万円のままです。しかし、この5000万円で300㎡の土地を購入して自宅を建てると、資産価値が5000万円のままであったとしても、前述した「小規模宅地等の特例」により、80%の評価減が適用できるので、相続税を計算する際には1000万円という評価額になります。
これが「財産の評価を下げる」ということです。
土地の価格には、公示価格・路線価・固定資産税評価額といった公的なものに加えて、実際に取引される価格である実勢価格というものがあり、一般に一物四価などと言われます。この中で、相続税・贈与税の評価額としては路線価が使われます。路線価は、おおむね公示価格の80%となるため、先の例で言えば、おおよそ公示地価5000万円で購入した土地は、その時点から相続税の評価額としては4000万円程ということになり、現金5000万円を相続するよりも、1000万円も評価額を下げることができるのです。
現金資産が多い場合には、納税資金の確保を考慮しつつも、不動産資産への組み替えが「財産の評価を下げる」ための有効な手段になり得るので、検討してみると良いかもしれません。
適切な相続対策のために
以上見てきたように、相続対策は、いざ相続が発生した時にはすでに遅いという問題があります。
「転ばぬ先の杖」で、早め早めに対策を講じることが大切です。
そして、適切な相続対策のためには、やはり専門家のアドバイスは欠かせません。最近では、インターネットなどでも相続税の専門家を探すことができますが、インターネットに掲載されている情報だけで、相談すべき専門家を決めるのはあまりお薦めできません。
もっとも有効に専門家を見つける方法は、お知り合いの紹介ではないでしょうか。親しいご友人に、過去に相続税のことでお世話になった専門家を紹介してもらうなどの方法もひとつです。
また、独自に探し出した場合でも、まずは相談してみて、その専門家の説明に納得できるかどうか、ということで判断されるといいと思います。
相続というものは、1次相続があれば、さらに2次相続が必ずあるものです。そのため、相続税に関する専門家とは長い付き合いになることが一般的です。
専門的な知識もさることながら、信頼できる相手かどうかということも、専門家選びの大切なポイントだと言えるでしょう。
Interview
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- 平松 慎矢(ひらまつ しんや)
- 平成18年
監査法人トーマツを経て税理士法人タクトコンサルティング 入社
日本公認会計士協会東京会 経営委員会 委員など歴任
主として相続対策、事業承継対策及び組織再編に係る資産税業務に特化
主な著書として「もっと詳しく知りたい人のための相続大増税と節税ヒント」(清文社)
「公益法人等へ財産を寄附した時の税務~措置法40条の非課税制度の解説と記載例」(共著:大蔵財務協会)などがある。セミナー講師など全国各地で多数行っている。
税理士法人タクトコンサルティング
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※プロフィールおよびインタビュー内容は2014年11月時点のものです